硝子戸の中 (新潮文庫)

暗く不安な気持ちになってくる時、漱石の「硝子戸の中」を読むことにしていると、少し前の毎日新聞紙上で誰だったか忘れてしまったが書いていたから私も読んでみることにした。何十年も前の若かったころに読んだ記憶はあるが、ほとんど内容を忘れてしまっていた。本書から漱石の潔癖というのか、頑固なまでのまっすぐな生き様を読み取ることが出来た。漱石のエッセイで記憶にあるのは、「倫敦搭、幻影の盾」だが、なんだか暗いイメージだけが残っている。漱石を語っている本では、「漱石ゴシップ」長尾剛著と、「漱石先生ぞな、もし」、「続・漱石先生ぞな、もし」半藤一利著、この三冊が漱石像を面白く書いていたから記憶に新しい。（半藤一利氏の奥様が漱石の孫だということはよく知られている）「硝子戸の中」は、私にとって初めて読んだのと同じみたいなものだから、漱石がなみはずれたユーモリストであり優しい人であったことをあらためて知ることができた。気持が沈んでいる時には、お勧めの一冊であると思う。