でも、これがアートなの?―芸術理論入門

扱われているテーマはとても良いが、一つひっかかる点は、訳者も述べているように取り上げる芸術家、思想などが入門書としては、偏っていることである。このことを肯定的に捉えるならば、この著者は、あえて多くの芸術学、もしくは美術史などの入門書が取り上げない視点を扱うことにより、このような入門書を手にする読者（＝芸術に対する基礎的な知識がある）に、なにか革新的な考え方をもたらそうとしたのだろう、と思える。そういった意味では、芸術学ってなんだ？というぐらいの人に対する入門、というよりは初級ぐらいの位置づけだったら良かっただろう。この本で重要なのは、訳者の存在であると私は思う。洋書版も読んだが、訳者による解説、あとがきのある本書の方が何倍も味わい深い。訳者の言うように、著者は知らず知らずのうちに、２０世紀後半の「アメリカの知の枠組み」の中で様々なことを検討し、結論を出している。そして、日本人なら、日本の知の枠組みの中に、知らず知らずのうちに捉われているだろう。そのことに幾つかの場面で改めて気付かされ、先ほど、この本の内容には偏りが見られると書いたが、その偏り自体も一つの面白みとして捉える視点が訳者の存在で生まれてくる。もちろん、すでに芸術学や物事を批評することに慣れている人にとってはつまらない話だが、この本が芸術を学問として学び始めた学生に読まれる本という位置づけであることを考えると、重要な点に思う。