原子力発電 (1976年) (岩波新書)

1976年の本なので、それ以降の話は盛り込まれていない。それでも、そもそも原発がどういうものであるのか、どんな種類があってどういう経緯で開発されたのか、安全のためにどのような対処をしているのか、どんな事故があり、それらの問題点は、といった基本的なことを理解することができる。最近の本は何かしらの悪いバイアスがかかっていることが多いのではという懸念から本書を入門書に選んだ。「夢のエネルギー」とまで宣伝し原発による電力供給を推し進めようとする政治家、電力会社に対して、原発はまだまだ発展途上の技術であり、系統的な研究を必要とし、そもそも大してあてにならないECSS（緊急炉心冷却装置）頼みの大規模化などもってのほか、という著者陣の主張はもっともである。また、アメリカの技術を日本に輸入する際には安全基準をかなり緩くしたことなどを知ることができる。石油の輸入に依存しないために原発を、という宣伝にしても、濃縮ウランをアメリカから輸入し、「死の灰」の処理をイギリスに頼むという現状で原発を「準国産」とすることの馬鹿らしさ、また「公開・民主・自主」の原則が踏みにじられ、政治家に都合の良い科学者だけが採用される現状を指摘する。（地球温暖化に影響を及ぼす火力発電からの脱却のための原発、という文句にしても、そもそも原爆のために開発された原子力を非効率ながら発電に利用しているので、膨大な廃熱を海に放出しておりその影響も無視できない、とまで本書は主張していないが、そういう議論がありうることも本書を読めばわかる）以下、不満な点を箇条書きにした。・核分裂、ウラン235とウラン238同位体などの予備知識を必要とする。特に第一章は文章だけではなく図を使って説明してほしかった（が、ここはあくまで導入部なので自分で調べれば良い）・キュリー、レムなど、今ではほとんど聞くことのない単位系・「死の灰」という単語（現代では「使用済み核燃料』？）・「その主なものを図8に示してみた」（p. 104）「図16には、ラムスッセン報告が分析したPWR型炉の冷却水パイプに大破断がおこった時のイベント・ツリーを書いてみた」（p. 136）のように、「〜してみた」という不適切な表現（特に後者は先行研究をまとめただけである）。ただしこれは4-5カ所にみられるだけであるし、内容と直接の関係はない。